マスク時代の肖像画バッジプロジェクト

 

誰もがマスクを付けて外出するのが当たり前になって1年以上が過ぎました。マスク着用はもちろん感染防止の最も有効な手段なのですが、一方で他者とのコミュニケーションにおいては不便を強いられることも多々あります。シンプルに個人的な意見を述べるのならば、他者の素顔が気になって仕方がないし、だからと言って「マスクを外していただけますか?」ともなかなか聞けないし、、、といったところです。そこでこの度、「マスク無しの素顔」という当たり前が当たり前でなくなった時代の表現として、肖像画という表現手段に敢えて向かい合ってみることにしました。

 

実はミシンで描く肖像画は大学を卒業して最初に始めた表現手段で、一時期本気で取り組んでいたことがあります。当時は「ミシン」とウォーホルの「シルクスクリーン」に同じ機械+手作業による表現という親和性を見出し、逆にウォーホルがやらなかったことを考えた結果、家族や友人の顔をシワやシミまでとにかく細く再現するという方法を選択しました。そして結果、モデルになった人たちの何人かを失望させたりもしました。そんな経緯があり、肖像画制作はしばらく封印していたのですが、今回20年以上の時を経て再始動するにあたり、1.家族・友人にこだわらずウォーホルのようにどんな方からの受注もお受けする。2.リアリティは追求するが、あくまで美しく、チャーミングな表現を目指す(シワやシミを描写していた頃も、それが人間本来の美しさと信じてやっていたことはここに記しておきます)。

この2点を念頭に制作しようと思っています。

 

出来上がる作品はミシンで縫われた小さな肖像画です。それを発注者が日常生活で身に付けられるようにバッジへと加工してお渡しします。値段は一律、66,000円(消費税込み)。

コロナ禍でアート市場が過熱していると伝えられている昨今ですが、自分の中では制作時間、手間などを考えた上で可能な限り抑えたつもりです。

かつて民衆の芸術を謳ったウィリアム・モリスは、機械化に対抗して手作業によるものづくりに拘った結果、コストがかかり、民衆の手が届かない値段になってしまうという矛盾に苦しみました。今回のプロジェクトの値段設定は、モリスの精神を受け継ぎつつ、矛盾なく多くの人に手作業の温もりを届けたいという思いを込めています。

 

ここ日本においてマスク生活は少なくともあと1年は続くと思いますが、このプロジェクトが日常生活やコミュニケーションの場において、何か明るさをもたらすものであることを願っています。

2021年5月 青山悟

前回第1弾を実施してみてわかったのですが、クオリティを維持するために思いの外、制作に時間がかかってしまいました。このことを踏まえて、第2弾は少し値上がりと募集人数を少なめにしました。ご了承いただけますと幸いです。

2021年8月 青山悟